【やさしいがつづかない】それでもやさしくあるために

心理学
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やさしくあり続けるということは驚くほど難しい。

ここまでの記事で、

「やさしさ」という言葉の定義

人がやさしくなれる条件

を明確にし、「やさしい」が続かない理由を探ってきました。

人はやさしさの種を持っているけれど、やさしさを続けることは想像以上に難しい。

自分のやさしさが当たり前のように扱われると、途端に許せない思いに駆られてしまう。

そんなやさしさを阻む障害があることがわかってきました。

今回は、いかに「やさしさ」を発揮し続けることが難しいことだとしても、

それでもやさしさを持ち続けるためにできることについて考えていきます。

 

この記事は、哲学研究者であり、東洋大学文学部哲学科教授をされている稲垣諭さんの著書「やさしいがつづかない」を参考にさせていただいています。

 

今回の記事は第四回の投稿になります。

以前の投稿は、以下の記事で紹介しています。 併せてごらんください。

第一回:【やさしいがつづかない】やさしいがむずかしいのはなぜ?

第二回:【やさしいがつづかない】そもそもやさしいって何?

第三回:【やさしいがつづかない】やさしくなれるのはどんなとき?

 

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1.やさしさを阻む壁ー現代社会に潜む「セルフコントロールの罠」

これまでの記事でも紹介してきた通り、「やさしい」の定義は自分の持つコントロール権を手放して相手に委ねること。そして、その結果起こることの責任を引き受けることでした。

「やさしさ」と「コントロール」は切っても切り離せない関係にあります。

この「コントロール権を手放す」ということが、現代においてやさしさを続けるうえでの最大の壁となるのです。

現代社会に潜む罠 「セルフコントロール幻想」

現代では「セルフコントロール」というものが重視されています。

自分で自分をコントロールできる範囲は多ければ多いほどいい。

自分が思い描く理想を実現するためには経験、スキル、お金や財産、時間をどれだけ自分でコントロールできるか?

これらのコントロールできる範囲を増やすことがいいとされています。

こうした意味で現代社会を生きる私たちは、セルフコントロールの範囲をとにかく増やすことに躍起になっているともいえます。

いろいろな場面で、あなたがコントロールできる範囲を増大させることが正しいことだと信じられているからです。

これを「現代のセルフコントロール幻想」と呼んでおきたいと思います。

出典:株式会社サンマーク出版「やさしいがつづかない」 稲垣諭

「やさしさ」はコントロールを手放すことが第一条件です。

これは現代の価値観とは真逆の行為です。

だからこそ、現代社会でやさしさを続けるためには、セルフコントロールの欲望に向き合う必要がありそうです。

やさしさは身近な環境でこそ難しい 「家庭に潜む支配」

やさしいを阻む壁である「コントロール」。

意外にも「やさしさ」は、身近な人にほど続けにくいのです。

英語で支配は「dominate ドミネイト」と言われます。

「domestic ドメスティック=国内の/家庭内の 」 「domestication ドメスティケーション=飼いならし/家畜化」 「domain ドメイン/領土・国」 「danger デンジャー/危険」 「damage ダメージ/損害」

ここで上げたすべての言葉の頭に、domやdan、damがついていますね。

これらの語源はdem-というインド・ヨーロッパの齟齬から来ていると考えられています。

その意味は「家・家族」です。

出典:株式会社サンマーク出版「やさしいがつづかない」 稲垣諭

自分が居心地が良いと感じる環境であればあるほど、その居心地の良さを維持するために相手のコントロール権を奪って支配したくなる。

自分ではそのようなつもりはなくとも、意思に反して無意識に支配したい欲望にのまれてしまうのです。

 



2.やさしさの芽を摘む 「やさしさ」は環境と余裕次第

セルフコントロールを求め、自分の居心地の良さを守るために、相手のコントロール権を奪って支配してしまう。

では、「やさしさがつづく」ということは夢物語の幻想なのでしょうか?

実はそんなことはありません。

次に紹介する2つのことを意識することで、100%ではなくてもあなたの持つやさしさの種を育てることができます。

性格や感情ではない やさしくなれない理由は環境にある

まずは、あなたの周りにいる人たちのことを思い浮かべてみてください。

その人たちはどんな人たちですか?

あなたが思い浮かべるような「やさしい」人たちでしょうか?

それとも、あなたのコントロールを平気で奪ってしまうような「やさしくない」人たちですか?

もし後者であるならば、あなたがやさしくなれないのは当然のことと言えます。

「それいけ!アンパンマン」を思い出してみましょう。

そしてあのアンパンマンの顔を、自分がもつやさしさの総量だと考えてみるのです。

できたてほやほやのあんぱんの顔があるときは、アンパンマンは誰に対してもやさしくふるまえます。

しかし、顔のあんぱんの一部を何人もの人に分け与えた後はどうなるでしょうか。

アンパンマンの顔はどんどんやせて小さくなり、見る影もなくなります。

アンパンマンは困っている人を助けたくても力が出ません。

出典:株式会社サンマーク出版「やさしいがつづかない」 稲垣諭

性格が「やさしくない」とかの問題ではなく、そもそも人にやさしくできるだけの「やさしさ」が枯渇してしまっているのです。

これは、周囲の環境、周囲にいる人たちがあなたの持つやさしさを奪っていき、やさしさが発揮できない状況に追い込まれてしまっているのです。

こうしたときにやさしくなれないのは、自分自身の問題ではなく、今いる環境の問題であることがわかります。

すべては「余裕」で決まる やさしさを生む「余裕」の力

あなたは自分自身にやさしくできていますか?

アンパンマンの例でもお話ししましたが、「やさしさの総量」が枯渇しているときに人にやさしくすることは困難です。

自分自身が社会や周囲の人にコントロールされて疲れているとき

会社や他人に時間を奪われて忙しいとき

不満がたまってイライラしていたり不安を感じるとき

人にやさしくできないのは当然です。

このような時の共通点、それは「余裕」がないことです。

時間に余裕がない、気持ちに余裕がないとき、自分のコントロールを取り戻そうとして自分のことしか考えられなくなる。

視野が狭くなり、相手の嫌なところや欠点ばかりが目に入る。

そして、相手の弱みに付け込んでコントロールしようとしてしまうのです。

このように、「余裕」がなくてやさしくなれないとき、一番の問題はやさしくなれないことではなく、「やさしさ」を奪って発揮できなくしている環境です。

そう考えると、「やさしい」をつづけるためにはどうすればよいのか?だんだんと見えてきます。

 



3.まとめ 「やさしさ」のきっかけは「自分を大切にすること」

ここまで、「やさしい」が続かない理由について考えてきました。

「やさしい」とは自分のもつコントロール権を手放して相手に委ねること。

「やさしい」が続かないのは、環境があなたのやさしさを奪い、やさしさの芽となる「余裕」がなくなっていること。

つまり「やさしい」を続けるためには、時間やお金、気持ちの余裕という、相手に委ねることのできる「コントロール権」を自分自身に確保しておくことが必要だということです。

そのためには、まずは自分自身にやさしくしてあげることが重要です。

やさしくなれないのは「やさしさの総量」が枯渇しているからであるのに、さらに追い打ちをかけるように自分を責めてしまう。

自分で自分のコントロール権を奪ってしまっていては、いつまでも「やさしさの総量」は戻ってきません。

よく「自分にやさしくできない人は人にもやさしくできない」といいますが、これはきれいごとなどではなく、人にやさしくするための余裕を取り戻すための、非常に理にかなった戒めの言葉だったのです。

もし、今あなたが「やさしくなれない」と悩んでいるのであれば、まずは「余裕がない時期にやさしくなれない自分がいること」を認めてあげてください。

そんな時もあると、自分自身を許し、自分にやさしくしてあげる。

そうすることで、きっとあなたのやさしさの芽が育っていくことでしょう。

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